任意売却とは、住宅ローンが払えない際に金融機関の同意を得て売却する方法です。
しかし、任意売却の意味やデメリット、リスクなどを理解していない人も少なくありません。
そこでこの記事では、「任意売却で買い手がつかないとどうなるのか」について徹底解説します。
任意売却を検討している方、すでに任意売却に向けて動きだしている方はぜひ参考にしてください。
任意売却で買い手がつかないと最終的に競売になる
任意売却で買い手がつかないと、最終的に競売にかけられてしまいます。ここでは、任意売却の意味や競売になる理由などを詳しく解説します。
任意売却を検討している方、すでに任意売却を進めている方は確認しておきましょう。
- そもそも任意売却とは
- なぜ任意売却できないと競売になるのか
- 競売なった後はどうなるのか
そもそも任意売却とは
任意売却とは、住宅ローンの返済が難しくなったときに債権者(主に金融機関)と相談しながら家を売却する方法です。
通常、家を売るにはローンを完済する必要がありますが、任意売却では金融機関の同意を得れば、ローンが残っていても売却可能です。ただし、売却価格がローンの残額を下回る場合、その差額をどう処理するか金融機関と合意する必要があります。
例えば、売却価格が1,500万円で住宅ローンが2,000万円残っている場合、500万円がローン残債となり、残債の返済方法について金融機関との話し合いが必要です。
なお、実際には売却価格1,500万円の中から仲介手数料や登記費用などの諸経費が引かれるため、ローンの残債は500万円より多くなる可能性があります。
また、売却の時期や引っ越しのタイミングについても、ある程度調整が可能な場合があります。
それでも、金融機関の意向次第ではすぐに退去を求められることもあるため、任意売却を検討している方は早めに金融機関へ相談しましょう。
なぜ任意売却できないと競売になるのか
任意売却できないと競売になる理由は、貸したお金を金融機関が競売で回収するためです。
前述のとおり、任意売却は金融機関の同意を得て売却する方法です。通常であれば住宅ローンの滞納が続いた場合、金融機関が保証会社に代位弁済を請求し、保証会社が新たな債権者となり競売を申し立てることになります。
それでも、事前に金融機関に相談して同意を得ることで住宅ローンが残っている状態でも売却できるようになります。
しかし、買い手が見つからない場合や金融機関が同意しない場合などの理由で任意売却できなければ、保証会社による代位弁済、債権回収会社への債権譲渡などを経て競売に進みます。
基本的に競売の方が売却の条件が不利になりやすいため、なるべく早い段階で任意売却の準備を進めるのが合理的です。
なお、状況次第では「競売の開札前まで」であれば任意売却が可能な場合があるため、専門家へ相談してみましょう。
競売になった後はどうなるのか
任意売却に失敗すると競売にかけられ、以下の状況になる可能性があります。
- 自宅を失う
- 借金が残る
- 信用情報へ悪影響を及ぼす
- 自己破産の恐れがある
それぞれを詳しく解説します。
自宅を失う
競売が始まると、債務者(不動産所有者)に向けて、競売が開始したことを知らせる「競売開始決定通知」が裁判所から送られてきます。その後、物件の評価や入札が行われ、最高額を提示した人が落札者となります。
落札後は、必要な手続きを経て落札者が所有者となるため、最終的に自宅を失うことになります。
ただし、落札した時点ではまだ所有権は移らず、まずは「売却許可決定」がなされ、代金の支払いと所有権移転登記の手続きを経て正式に所有者となるのが一般的です。
また「売却許可決定」に対して異議申し立てが可能であり、異議申し立てが認められると、落札自体が取り消される場合もあります。
「競売開始決定通知」が届いてから強制退去まで数ヵ月~1以上かかるため、競売物件に住んでいる方は事前にスケジュールを確認し、早めに対策を考えることが重要です。
借金が残る
競売後も、住宅ローンの残りの借金は返済しなければなりません。競売で得られる相場は市場価格の5割前後と低く、築年数が古い物件や立地条件が悪い場合は3~4割程度で落札されるケースもあります。
そのため、売却後も借金が残るケースは少なくありません。
それでも、住宅ローンの返済がある程度進んでいる場合や不動産価格が急騰したエリアでは、6~8割で落札される場合もあります。
残った借金は一括返済を求められるのが一般的ですが、難しい場合は金融機関と相談し、少額ずつの分割払いを交渉するのも可能であり、場合によっては債権が債権回収会社に引き継がれる場合もあります。
また、返済ができなくなると給与の差し押さえといった強制執行のリスクがありますが、すぐに実行されるわけではありません。通常は金融機関や債権回収会社と話し合いが行われ、数か月~1年程度の時間がかります。
信用情報へ悪影響を及ぼす
住宅ローンの返済が長期間滞ると、金融機関が信用情報機関に「長期延滞」などの金融事故として登録する場合があり、新たなローンやクレジットカードの審査は厳しくなるでしょう。一般的には3か月(または61日以上)の延滞が異動情報(いわゆるブラックリスト)に登録される目安とされますが、金融機関ごとに基準が異なります。
また、競売の情報は裁判所の掲示板やインターネットの「BIT(不動産競売物件情報サイト)」などで公開されるため、周囲に知られる可能性があります。
自己破産の恐れがある
競売後は住み慣れた家を手放すだけでなく、残った借金が自己破産につながる可 能性もあります。
自己破産とは、借金の返済が困難になった際に裁判所を通じて免除を求める手続きです。
自己破産を申請すると、不動産は基本的に破産管財人(裁判所が選任する弁護士などの専門家)によって処分され、債権者への支払いに充てられます。
また、自己破産の記録は「債務整理」や「異動情報(いわゆるブラックリスト)」に登録されるため、結果的にローンやクレジットカードの審査に影響を及ぼします。一般的には5~7年の間ローンやクレジットカードの審査に影響を与えます。(一部の金融機関では10年以上の場合もある)
それでも、「自由財産」として99万円以下の現金、一定の生活必需品は残せる可能性があります1。
自己破産を避けるには早めに金融機関へ相談し、任意売却やリスケジュール(返済条件の変更)について決めておきましょう。
▼関連記事:任意売却と競売の違い
任意売却で買い手がつかない主な原因
任意売却で買い手がつかないのには以下の原因が考えられます。
- 価格設定が高すぎる
- 売り出す時期が適切でない
- 物件の状態が悪い
- 不動産会社の選択ミス
任意売却が進まない方は参考にして みてください。
価格設定が高すぎる
市場価格よりも高く設定すると買い手が敬遠し、売却が難しくなる場合があります。特に任意売却では、金融機関ができるだけ多くの回収を目指すため、適正価格の設定が重要です。
また、市場相場を無視した価格で売り出すことは一般的ではありません。任意売却は期限内に売れなければ競売になってしまうため、相場と同程度かやや低めの価格で売り出されることが多いです。
金融機関もできるだけ高く売れることを望みますが、それと同様に早期売却も重要視しています。価格が高すぎて売れにくいと判断された場合、価格調整を求められる場合があります。
価格を設定する際は、不動産情報サイトで相場を確認したり専門家に相談したりしましょう。
売り出す時期が適切でない
不動産は、季節により売れやすい時期があり、2月から4月は新生活を始める人が多く、物件が売れやすい時期とされています。
7月から8月は会社員の転勤が決まる時期でもあり、特に法人向けの賃貸・売買市場は活発です。また、共働き世帯やファミリー層は夏休みを利用して家探しをする傾向もあります。地域によっては夏の方が売却しやすいケースもあるため、地域の特性を理解することが大切です。
しかし、これらの特性を理解せずに売り出してしまうと、状況によっては買い手がつきにくくなり可能性があります。また、周辺相場に見合わない価格に設定している場合も売れない要因の一つです。
売却を成功させるためには市場の動向をよく調査し、需要が高まる時期を選びましょう。
物件の状態が悪い
外観の手入れが行き届いていないと、築年数以上に古びた印象を与え、購入希望者の興味を失わせる可能性があります。また、室内の傷や汚れが目立つ場合、物件の管理が不十分と判断され、買い手が敬遠するでしょう。
さらに、生活感が強すぎると、内覧者が自分の新生活をイメージしづらくなり、購買意欲を削ぐ要因となります。ほかにも、雨漏りやシロアリ被害などの重大な欠陥があるのも、買い手に敬遠される要因です。
それでも、通常の売却と異なり、任意売却の買い手は法人や投資家のケースもあり、見た目や清掃状態が重要視されない場合もあります。
そのため、「建物としての欠陥や不具合がないか」を重点的に見ながら、外観や室内状況の清掃や整理整頓を進めるのがよいでしょう。
不動産会社の選択ミス
任意売却を成功させるためには、経験豊富な不動産会社を選ぶことが重要です。任意売却の知識が不足していると、適切な価格設定や販売戦略が取れず、売却が長引く可能性があります。
例えば、任意売却の経験がない不動産会社では、物件の魅力を十分に伝えられなかったり、適切な市場価格を設定できなかったりすることがあります。
売却が進まないと、最終的に金融機関が競売を選択する可能性もあるため、任意売却の実績が豊富な不動産会社を選ぶことが重要です。
▼関連記事:任意売却の相談はどこでできる?
任意売却で買い手がつかない場合の対策
任意売却で買い手がつかない場合は以下の対策を実践してみましょう。
- 販売価格を見直す
- 物件の魅力を高める
- 金融機関とのコミュニケーションを密にする
- 内見対応を充実させる
- 任意売却に強い不動産会社へ変更する
それぞれを詳しく解説します。
販売価格を見直す
販売価格が適切でない可能性があるため、市場価格や近隣の類似物件の価格を調査し、適正な価格設定に見直しましょう。
価格が高すぎると買い手が敬遠し、相場より明らかに安いと債権者(金融機関)が「もっと高く売れたのでは?」と判断し、売却を認めない可能性があります。
価格を見直す際は、任意売却の実績豊富な不動産会社へ相談し、実際の成約価格や金融機関の基準を考慮した価格設定にしましょう。
物件の魅力を高める
任意売却時は、一般の買主のほかに、法人や投資家が買主となるケースもあるため、大掛かりなリフォームよりも、最低限の清掃と不要な荷物の整理が効果的です。
具体的には、内装を明るくするために証明を入れ替えたり、不要な家具や家電を処分して広く見せたりするなどです。また、近隣の便利な施設や交通アクセスの良さを強調することで、購入希望者に利便性をアピールできます。
ただし、シロアリや雨漏りなどの重大な欠陥がある場合は修繕してから売り出した方がよいでしょう。
金融機関とのコミュニケーションを密にする
任意売却では、通常、金融機関が住宅ローンの担保権者となります。そのため、売却価格や条件の調整において、金融機関との協力が不可欠です。売却活動の進捗や市場の状況を定期的に報告し、価格の見直しや条件変更について柔軟に相談しましょう。
また、任意売却には担保権を持つ債権者の同意が必要です。売却が進まない場合は、価格を再検討したりより多くの買い手にアプローチできる方法を検討したりすることが重要です。債権者との密なコミュニケーションを続けることで、売却成功の可能性を高められます。
内覧対応を充実させる
内覧は購入希望者に物件を確認してもらう貴重な機会ですが、任意売却では金融機関の承認が必要なため、すぐに購入が決まるわけではありません。 それでも、内覧による第一印象を良くすることは大切です。
具体的には、できる範囲で掃除や整理整頓を行い、清潔感を保つことが重要です。 生活感を抑えるために不要な荷物を片付け、明るい照明や換気で快適な空間を演出すると、購入希望者が良い印象を持ち やすくなります。
ただし、修繕には費用がかかるので無理に手を加える必要はなく、 目立つ汚れは拭き取り、簡単に直せる部分を整える程度で十分です。また、ペットや生活臭がある場合は、換気や消臭剤を使って対策すると良いでしょう。
さらに、任意売却では金融機関の承認を得る必要があるため、購入手続きに時間がかかる可能性があることを事前に伝えることも重要です。 価格の安さに注目する購入希望者が多いため、周辺環境の魅力よりも購入時の手続きの流れを丁寧に説明した方が効果的です。
また、現行の税制では一定の基準を満たす高性能住宅の場合、中古住宅でも住宅ローン控除の適用限度額がアップします。
- 長期優良住宅
- 低炭素住宅
- ZEH水準省エネ住宅
- 省エネ基準適合住宅
長期優良住宅であれば2009年ごろから、その他は2012年ごろから本格的に普及しており、それ以降に建築された家の場合は基準に適合していることを証明することで、買手の金銭的負担が緩和される可能性があります。
こうした点も調査して、広告に盛り込むなどの工夫も考えられるでしょう。
任意売却に強い不動産会社へ変更する
任意売却では、通常の売却よりも短期間で買い手を見つける必要があります。しかし、物件の条件が悪い、価格が適正でない、地域の需要が低い場などは買い手がなかなか現れないケースも少なくありません。
もし買い手が見つからない場合、価格の見直しや債権者との交渉が必要です。金融機関が許可すれば、価格を下げて売却しやすくすることも可能ですが、それでも買い手がいない場合は競売にな るリスクもあります。
また、不動産会社によっては任意売却の実績が少なく、適切な対応ができない場合もあります。そのため、実績豊富な会社を選び、債権者との交渉経験があるかどうかを確認することが重要です。
任意売却に強い不動産会社選びのポイント
任意売却に強い不動産会社を選ぶ際は以下のポイントを押さえましょう。
- 任意売却の実績が豊富
- 弁護士や税理士などと連携している
- 利用者の口コミ・評判が良い
- 任意売却後のサポートが充実している
それぞれを詳しく解説します。
任意売却の実績が豊富
過去の任意売却の実績がある不動産会社に相談し、過去の対応経験を確認しましょう。この際、成功事例が公開されていなくても、長年の経験や専門の担当者がいるかどうかをチェックすることが大切です。
また、任意売却は金融機関の承認が必要であり、不動産会社の交渉力だけでは売却が決まるわけではありません。買い手がつかない場合は、価格の見直しや金融機関に対して追加の交渉を依頼するなど、柔軟に対応することが求められます。
信頼できる不動産会社を選ぶことで任意売却の成功率が高まります。まずは、複数の会社に相談し、実績や対応を比較してみましょう。
弁護士や税理士などと連携している
任意売却は、通常の不動産売買とは異なり、債権者との交渉が必要です。そのため、弁護士と協力し、適切な手続きを進めるのが重要です。特に、債権者との交渉では、返済計画の見直しや差し押さえ解除について話し合い、スムーズに売却を進めることが求められます。
また、税理士からは税金面のアドバイスをもらえますが、滞納分の免除や交渉は税務署や自治体と直接行う必要があります。さらに、任意売却後も債務が残るケースが多いため、分割返済の交渉や生活再建のアドバイスを受けられる不動産会社を選びましょう。
利用者の口コミ・評判が良い
利用者の口コミや評判は、実際にサービスを受けた人々の生の声であり、会社の信頼性や実績を知る際に参考になります。
例えば、インターネット上のレビューサイトやSNSでの評価を確認することで、各社の対応や成果について具体的な情報を得られます。また、知人や友人からの紹介も有益な情報源です。
ただし、市場の需要や債権者の判断によっては買い手がすぐに見つからない場合もあります。そのため、価格調整や販売戦略の見直し、リースバックの活用など柔軟な対応が必要です。
任意売却後のサポートが充実している
任意売却は、売却完了後も残った借金の返済や新しい生活の立て直しなど、多くの課題が残ります。これらの問題に対して、適切な支援を提供してくれる会社を選ぶのが重要です。例えば、残債務の処理サポートやリースバック対応、引っ越しや新生活のサポートなどがあります。
これらのサポートを提供している不動産会社を選ぶことで、任意売却後の生活再建がスムーズに進みます。不動産会社によって提供しているサービスは異なるため、複数の不動産会社と比較したうえで、自分の生活に合っている会社へ相談しましょう。
任意売却に関する注意点
任意売却に関する注意点は以下の3点です。
- 期限内に買い手を見つけなければならない
- 売却には債権者全員の同意が必要
- 共有不動産の場合は共有名義人の同意が必要
思わぬトラブルに発展しないよう確認しておきましょう。
期限内に買い手を見つけなければならない
任意売却は、債権者である金融機関との合意のもとで行われ、売却には一定の期限が設けられるのが一般的です。そのため、期限内に買い手を見つけて売却する必要があります。
しかし、期限内に買い手が見つからなくても、すぐに競売になるわけではありません。金融機関との相談により、売却期間の延長が可能になるケースもあります。また、売却活動の見直しや場合によっては不動産買取会社に相談するなど、柔軟に対応すれば競売を避けられます。
任意売却を成功させるためにも期限を意識しつつ、早めに適切な対策を取りましょう。
売却には債権者全員の同意が必要な場合がある
任意売却には債権者の同意が必要ですが、全員の同意が絶対条件ではありません。具体的には、住宅ローンの第一抵当権者の同意が得られれば売却成立するケースがあります。
ただし、税金の滞納や他の借入れがある場合、売却後の配分をどうするかが問題となり、他の債権者の協力を得られないと手続きが難航することもあります。
債権者との交渉が長引くと売却期限に間に合わず、最終的に競売となる可能性もあるため、早めの相談が重要です。
共有不動産の場合は共有名義人の同意が必要
共有名義の不動産を任意売却する場合も全ての共有者の同意が必要です。共有名義とは、夫婦や親子など複 数人で不動産を所有する状態を指します。ただし、金融機関が抵当権を持つ場合、売却価格によっては金融機関の同意も求められるため注意が必要です。
特に、離婚や疎遠になった共有者がいると、同意を得るのが難しくなります。そのため、早めに全員と話し合い、理解を得ることが重要です。もし共有者の一部が同意しない場合でも、法的手続きを通じて売却が可能な場合があります。意見がまとまらないときは専門家に相談し、最適な対応を検討しましょう。
まとめ
任意売却で買い手がつかない原因や対処法を解説しました。
任意売却は、住宅ローンの債権者である金融機関の同意を得て行う売却方法であり、通常の売却方法よりも複雑で専門知識を要します。また、売却代金で住宅ローンを返済できなければ借金として残るため、適切な販売価格にすることが大切です。
任意売却を成功させるためには、適切な売り出し時期を理解したり、物件の魅力を高めたりするのが効果的です。ほかにも、任意売却に強い不動産会社へ依頼することで、より安全かつスムーズに売却を進めてくれます。
住宅ローンが返済できずに任意売却を検討している方、もしくはすでに任意売却を始めている方は、ぜひこの記事を参考にして任意売却を進めてみてください。